訪問看護ステーションでの「言語聴覚士」の役割とは
ここ数年で「地域」という言葉をよく耳にするようになりました。「地域」への関わりの1つに「看護師」「理学療法士」「作業療法士」が医療機関や訪問看護ステーションからご自宅に訪問を行う支援がありますが、「言語聴覚士(以下ST)」による在宅支援は全国的にも数少ないのではないでしょうか。今回は「訪問看護ステーションspito-スピット-」(熊本県)に勤務する言語聴覚士の方に在宅支援での役割や魅力についてお伺いしました。
①医療機関と在宅リハビリの違いについて
②言語聴覚士の在宅リハビリでは、どのような依頼が多いか
③在宅リハビリの魅力
記者:こんにちは。今回はよろしくお願いします。
ST:こちらこそよろしくお願いします。
記者:もともとは医療機関に勤めていたとお聞きしました。言語聴覚士としてリハビリを行うなかで医療機関のリハビリと在宅のリハビリに何か違いってありましたか?
ST:病院では主に脳血管障害の患者様に対して、「高次脳機能訓練」や「摂食嚥下訓練」を実施することが主なリハビリでした。特に嚥下障害の方の食事指導を行うなかで、医療機関では管理栄養士や調理師の方が「刻み食」や「とろみ食」などのその方にあった食事を提供しています。しかし、病院食の場合はご本人やご家族が作ったものではないため、実際にご自宅で帰られてからの食事を想像することは難しいです。
その点、在宅支援を行うなかで実際に食べられている食事形態やトロミの有無や間食の種類、食事動作や食事介助などの確認ができるため、本当にその方にとって最適な摂食嚥下訓練ができることが大きな違いだと感じています。また定期的に嚥下評価を行うため、状態変化に応じた食事指導ができるうえで誤嚥性肺炎の予防にも努めることができます。
記者:実際にその方の生活が見られることで必要な支援やリハビリが提案できることは非常に強みの部分ですよね。在宅での言語聴覚士への依頼はどのような方が多いんですか?
ST:先ほどお話ししたように摂食嚥下に関する依頼は多いです。また、高次脳機能障害(失語)を後遺症として悩まれる方の依頼も多いです。退院後にご家族がご本人とコミュニケーションをとることに苦戦されるため、「何に困っているのか」「何を要求されているのか」がわからないため、意思疎通をお互うことができずに悩みを抱えることが非常に多いです。そのため「コミュニケーション方法を教えてほしい」「言葉を話せるようになりたい」などの失語症に対するリハビリを希望されます。
しかし失語症の方は外部との接触を控えるようになり、うまく話せなくなったことを受け入れてこのままでも良いと改善を諦めてしまう方が非常に多いです。脳血管障害を発症した年数がどのくらい経っても私たちはご本人や家族とのコミュニケーション、絆を再構築することを使命として取り組んでいます。
記者:私も失語症の方を担当したことがありますが、私たちも失語症の方の思いや考えをくみ取ることは容易ではありませんもんね。在宅で関わるなかで大切にしていることも教えていただけますか?
ST:病気の各ステージにおいてリハビリ内容や支援の役割は異なると思っています。特に回復期病棟でのリハビリは機能面を高めることが重要ですので、積極的な機能訓練を実施していきます。ただ、病院勤務時代に私が反省しなければならなかったのは機能面でしか患者様を見れていないなと感じたことでした。在宅ではその方に向き合う時間があるため、その方の人柄、人生、家族背景など機能面以外の要素を見ていくことを大切にしています。また、ご家族の悩みや介護の不安など、ご本人同様にご家族の支援も大切にしています。
記者:発症時期に応じて各ステージでの専門職の役割は異なりますが、その方を見ていくことは最も大切なことですよね。訪問でのSTの魅力って何ですか。
ST:その方の住み慣れたご自宅に訪問する事で、以前の写真や本棚の本、趣味で作成したものなど、その方がどのように過ごしてきてどのような事を愛していたのかに直接触れることができて、そこから話を広げて一人ひとりの人生に寄り添って支援を行えることに魅力に感じます。医療機関ではご利用者のバックグランドや一部分の情報しかわからないことが多かったです。
記者:最後になりますが、現在取り組んでいることを教えて欲しいです。
ST:まだまだ猛暑が続きますが、今注力して取り組んでいることは脱水に伴う脳梗塞などの脳血管障害の予防です。
摂食嚥下障害をお持ちの方は水分摂取を控えられるため、脱水傾向となりやすいです。そのため、脳血管障害発症を予防するなどの取り組みを行っています。当事業所を利用されているご利用者にはチェックシートを活用したスクリーニングでの飲み込みの評価を実施してもらい、摂食嚥下障害が疑われる方に私たちが介入し、トロミの作り方やその方にあった食事や飲水方法を伝える取り組みをしています。
まだまだ「言語聴覚士って何?」「どのようなことができるの?」と疑問に思われる方が多い気がしています。スピットの理念でもある「明日に紡ぐ」生活支援を私たちなりに行えるよう日々奮闘します。